私好みの新刊  20182

『水辺の番人 カワウ』 (たくさんのふしぎ

中川雄三/文・写真 福音館書店

 カワウと言えばどちらか言うと〈困った鳥〉という印象が強い。カワウは

池や湖の周辺でコロニーを作って多量の糞害で樹木を枯死させることがしば

しば起きている。琵琶湖の竹生島などではカワウの糞害対策と魚類保護の名

目で県をあげてカワウの追い出し作戦を展開していた。

 そのカワウを写真家の中川さんは,各地の湖や川をめぐって写真に収めて

いた。巻末に綴じられている「作者のことば」から引用すると,中川さんは

「むかしも今も、優れた自然の残る水辺に暮らし、まるで豊かな水辺の番人

・守り人のように見えるのが、カワウたちの本来の姿なのだと思います」と

書いている。この本のタイトルも「水辺の番人 カワウ」とある。これがカ

ワウ本来の見方なのかもしれない。見た目はカラスより一回り大きく一見グ

ロテスクなカワウに,中川さんは子どものころから魅力を感じていた。中川

さんのカワウへの愛着がこの本によく現れている。

まずはカワウの全貌写真が出る。堂々たる姿である。水面に並ぶカワウの

姿もまたかわいい。続いて顔のクローズアップ写真。「一見、カワウは真

っ黒ですが、ちかくでよく見ると、大変美しい色をしています」とあるが

不気味な感じもしないではない。恐竜を思い出させる顔らしい。鵜飼いの

歴史について一言書かれている。今の鵜飼いにはウミウが使われていると

のことである。次はカワウの鳥としてのすばらしい能力がわかる写真が並

ぶ。速い潜水能力で水底まで一気にもぐって逃げる魚も丸呑み,すごい能

力だ。まさに「鵜呑み」である。大きな翼を広げて羽根を乾かすと再び潜

水へ。水かきのある立派な足で水中突撃もお手のものである。次にコロニ

ーの写真が出る。樹木はカワウたちの糞で真っ白になっているがここでの

コメントはない。大物の魚を仕留めたカワウの得意げな写真が並ぶ。

「カワウは自然界での養分の循環に貢献しているのです」「カワウは小さ

な魚たちにとっても味方になります」と本文中で中川さんは書いているの

だが,カワウの現実をあえて回避しているのかも知れない。カワウの鳥と

しての能力と生態がわかる本ではある。    

            201711  667 

 

『サケが帰ってきた!』    奥山文弥/著  小学館

帯に「東日本大震災、そしてサケ漁の復興魂ゆさぶる人間ドラマ!」と

書かれている。福島県の漁協に勤めていた主人公が大震災と原発災害の中

から復興に向けて取り組む漁協復興物語である。主題は実在の漁協職員謙

太郎氏の奮闘ドラマである。釣り少年であった謙太郎は幼いときに近くの

川で見た〈怪魚=サケ〉を釣りたいと思ったが,父から「サケは水資源保

護法で捕獲は禁じられていて一般人は釣れない」と告げられる。それ以来

謙太郎にはサケへの思いがますます強くなり運良く水産高校から漁業協同

組合に就職する。漁協ではあわせ網でサケを捕獲し採卵場で受精させて稚

魚を育て川へ放流するというサケ養殖事業をしていた。漁協組合員ならサ

ケの捕獲は許可されているので遠慮なく遡上中のサケを捕獲できた。その

うち海外からのさけの供給も増え,漁協の収入が減ってくる中組合長の提

言で,一般人もサケが釣れる漁獲調査事業の許可もとった。サケ釣り人を

公募すると大人気,福島県楢葉町の木戸川はサケ釣りができる川として全

国的に知られるようになった。放流されたサケの稚魚は海で大きく成長し

て産卵するために生まれた川に帰ってくる。サケの産卵後はすべてのサケ

は命はつきるが,そのサケの死骸が川の栄養になり植物や小動物が繁殖す

るという。うまく自然界の食物連鎖が続くのだという。こうして謙太郎の

勤める漁協は養殖事業の他に渓流釣りの事業も軌道にのってきた矢先,2011

311日大地震と大津波に遭遇する。やっと軌道に乗り出した漁協の施

設も壊滅,途方に暮れていると追い打ちをかけて原発事故による避難勧告

が出される。津波ですべてを失った失望感の上に放射能の恐怖が人々の心

につきささる。事務所は閉鎖,その間養殖用に飼育いていた魚は全滅して

しまう2重の災難に見舞われる。多くの苦難を乗り越えて1年半後に避難

勧告が解除される。謙太郎たちはモニタリング調査で川に入る。するとそ

こにキラキラ鱗の光が…4年前に放流されたサケが帰ってきていたのだ。

そのことがみんなを元気づけ漁協はようやく復興への道を歩み始める。

想像を絶する現実をのりこえていく漁協の人たちの苦難の道がリアルに

描かれている。             201710月 1,300

 

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